決済総額は2017年44億ドルが2020年に78億ドルへと拡大する、別の記事では350億ドルの市場規模があるとメディアによって規模もまちまちなベトナムのFintech市場。

以前開催された大手会計事務所EY(Ernst & Young)のセミナーでは、ベトナムのFintech関連スタートアップ企業に1億2,900万ドル(約141億円)もの投資が流れ込んでいることが紹介されるなど活況を呈しています。昨年11月にベトナムのFintechを取り上げてから10ヶ月経ちましたので、レポートや報道などから現在のベトナムFintech事情について調べてみました。

1. ベトナムのFintechが注目される社会的背景

少し前の2018年5月にシンガポールのSolidiance社より『Unlocking Vietnam’s Fintech Growth Potential』という英文のレポートが公開されていますので、まずこちらの内容を元に状況を見ていきます。なお冒頭の決済総額が2017年44億ドルから2020年に78億ドルへというのはこちらのレポートからになります。

1-1. 低いベトナムの銀行口座保有率

まずこのニュース記事によると現在ベトナムでは人口を超える1億5000万枚もの銀行カードが発行されておりますが、1人で複数枚保有しているため銀行口座の保有率はまだ低く、他のアセアン諸国と比べても低いという特徴があります。2017年時点でも、
・ベトナム:59%
・タイ:86%
・マレーシア:93%
であり2014年のベトナムの銀行口座保有率31%からは倍近く伸びてはおりますが、2020年の政府目標70%を達成したとしても他国よりも低い状況です。

1-2. 伸びるベトナムのネット利用者数

一方でネット普及率やスマートフォンの普及率は急速に伸びており2013~2016年では
・ネット普及率44%⇒52%へ(年平均成長率7%)
・スマホ普及率20%⇒72%へ(年平均成長率58%)都市部で72%、田舎で53%
と増加しています。

また2018年6月11日に公開されたAppota社による『Vietnam Mobile App Report _ First half of 2018_Eng_Lite』では、下記のような推移でネットやモバイルネットのユーザー増加が予測されており、こういった市場環境をうまく活用するFintechサービスが注目されています。

ちなみに2018年ベトナムの人口は+100万人の9,470万人になると予想されているので上記数値から2018年時点では、ベトナムのネット普及率58.3%、モバイルネット普及率48.4%であることがわかります。

また余談ですが2018年7月26日付けの報道で開始から1年経過した4G利用者数は、1,300万人を突破したと情報通信省が発表しており、モバイルネットユーザーのうち約30%ほどが4Gの高速な回線を使っている様子が見て取れます。

2. 電子決済に各分野の大手企業が続々参入している

このアプリ開発ラボマガジンで2017年3月に取り上げた通りECも含めて現金取引が主流のベトナムにおいて電子決済を普及させたい政府の後押しもあり、Fintechの中でもこの電子決済分野への参入や企業間での提携が相次いでいます。

(1)携帯電話会社(通信事業者)最大手のViettel

今年6月にViettel Payを開始。人口の3分の2がいる農村部などにおいて、銀行口座がまだ無い人(約国民の半数弱)でも送金や決済ができることを打ち出しました。7月24日の報道では、ユーザー数が100万を超えたとあります。

(2)ベトナム最大手のIT企業FPTグループのFPT telecom

今年1月にNational Payment Corporation of Vietnam(NAPAS)と組んでAutoPayという無料の自動支払いサービス(指定した銀行口座からの自動引き落とし)を開始しました。また電子決済のVN Payと一緒にQRコードを利用した決済を実施していく事で合意もしています。

(3)不動産最大手で小売・病院・国産車開発まで複合企業VIN group

今年7月に決済代行サービスを提供する「VINID」を設立し資本金3兆ドン(約143億円)のうちVIN groupで80%の2.4兆ドン(約114億円)を出資するなど資本力で勝負しようとしています。

(4)ベトナム通信の巨人VNPT

固定電話から光ファイバー、携帯電話までを手掛ける国営企業ベトナム郵政通信グループ(日本でのNTTのような存在感の会社)も、この8月に地場銀行のマリンタイムバンクと提携して彼らのお客にVNPT Payを提供していくと発表しました。

(5)スマホ配車アプリ最大手のGrab

今や都市部で欠かせない存在となったGrabも配車の支払いに使えるGrabPayを決済プラットフォームとして使ってもらえるよう展開する予定です。

(6)ユーザー数1億(公称)ベトナム国産メッセンジャーZaloを運営するVNG

ZaloPayで大きな損失を出しつつZaloPayに投資を集中すると5月に発表しています。

(7)ベトナムのスマホシェアで半数弱を占めるサムスン

2017年9月にSamsung Payをベトナムで開始し、開始後6ヶ月間で40万人の登録者が計50万件で3,500億ドン(約16.7億円)の決済を行ったと報じられています。

3. ベトナム電子決済の状況

そんな大手企業が続々と参入を予定している電子決済について、上記Appota社のレポートによると決済総額は64億ドル(約7,000億円)となり1年で22%増加したとあります。

3-1. 決済アプリMoMoからみるベトナムのe-wallet (イーウォレット)

Solidiance社のレポートでは、この分野におけるリーディングカンパニーとしてMoMoがあげられています。2007年創業し、2013年にゴールドマンサックスから575万ドルを調達、2017年ゴールドマンサックスやスタンダードチャータード銀行などから2,800万ドルの資金を調達したことでも有名なMoMo Vietnam。アプリ上で送金、請求書への支払い、プリペイド携帯のチャージ、サービス購入、個人ローンの支払いができます。

レポートではユーザー数500万超とありますが、よりも情報が新しい2018年7月26日付けのニュース記事によると、6月末時点でアプリダウンロード数800万件、年間の決済(取引)件数は2億件で計12億ドルにもなります。

アクティブユーザー数は不明ですが逆算すると、『[wc_highlight color=”red” class=””]ベトナム大手の電子決済アプリでは、1ユーザー(1アプリ)あたり年間25件、計150ドル決済し、1件あたり6ドルのお金が動いている[/wc_highlight]』と言えるのではないでしょうか。意外と1件あたりの金額が大きいのは、アプリを使った個人間の送金も含まれているからかもしれません。

レポートではMoMoが他の電子決済と異なる点として、銀行口座を持っていないユーザー層を引き付けるためにベトナム全土45の省(日本でいう都道府県)で4,000店舗のネットワークを持つ点があげられており、200を超えるデジタル金融サービスを提供する多様なパートナー(国内銀行11行を含む)を開拓できたこと、顧客からのフィードバックを元にした迅速なサービスの改善があげられています。

ちなみにこの分野におけるパイオニアは、日本のNTTデータが子会社化したViet Union社の運営するPayooで、ベトナム国内30の銀行、コンビニ、スーパー、小売り店舗を含む全国6,000以上の拠点と連携し200種類以上の公共料金支払いが可能なサービスです。

Payooのアプリを紹介している動画

コンビニなどにおける公共料金の支払いでもPayooの端末が使われており年間決済総額が約20億ドルとあるので、アプリだけで展開するMomoが急速にPayooを追い上げている様に伺えます。

3-2. 電子決済へ参入する企業が急増する理由

この電子決済/電子財布へ進出する企業が多い理由としてSolidiance社のレポートでは、以下の点があげられています。

(1)銀行口座の代替を狙う

銀行口座保有率が低いため口座を持っていない層を開拓が見込め結果、ベトナムの電子財布(eウォレット)普及数は、2017年半ばで約1,000万にもなります。

(2)固定取引手数料を打ち出せる

一般利用者から見て銀行取引の場合、都度振込手数料がかかるものの電子財布の場合この負担が少なく、銀行利用者が電子財布サービスに切り替えるための重要な決定要因であるとされています。

(3)ベトナムの政策に伴う銀行の協力が期待できる

中央銀行が目標として掲げている2020年に銀行口座保有率70%という政策に伴い各銀行ではパートナーシップを促進しています。


ZaloPayも銀行との連携をWEB上で打ち出している

またベトナム政府は、モバイル決済の促進についてCircular39の政令を出し決済・支払い・回収サービスといった電子財布事業を行う多数の企業に法令順守やセキュリティを確保させたうえでライセンスを供与しています。また2020年までの中央銀行の目標の中で現金決済を10%以下にするという目標を掲げています。

(4)前述のスマホやネットの普及を取り込める

(5)EC利用者数の急拡大を取り込める

ベトナムのEC利用者数は、2018年で3,730万人ですが

こちらの図のように年平均5%で伸びていくと予想されています。

一方でECにおける主要な決済方法は、まだ代引きによる現金払いが主流となっているものの、ここが電子決済に置き換わると予想されています。Solidiance社のレポートによると[wc_highlight color=”red” class=””]ECにおけるオンライン平均決済額は62ドルから、2021年には96ドルへと増加する見込み[/wc_highlight]とのことです。

3-3. 競争が激しい電子決済分野

しかし電子決済関係は、競争が激しく新しい参入者の脅威に常にさらされている世界でもあります。例えば上記で上げたMoMoとViettel Payは、農村など銀行口座を持っていない人を今後開拓するという点で対象が完全に被ります。

また各ベトナムの銀行(VPBank、Maritime Bank、ACB)も独自に電子決済へと取り組んでおり、他にも中国のAlipayがベトナムの決済機構NASPAS(National Payment Corporation in Vietnam )と2017年11月に提携、さらにApplePayなども今後広がっていく可能性があります。

NAPASとAlipayとの提携を伝える報道記事より

規模が比較的小さい会社や特色が出せない会社・サービスにおいては、破綻・吸収合併(M&A)等による統合は避けられないと予想されています。

4. ベトナムFintechの市場データ

最後に市場データをいくつか見ていきます。

4-1. 今後ベトナムのFintechで熱くなる分野は・・・

まずSolidiance社のレポートでは、現在ベトナムのFintechで大半を占めるのは電子決済(Digital Payment)であるものの、今後2025年にかけて個人や企業金融(Personal&Corporate Finance)関係が最も早く成長すると予測されています

2017年の市場
における規模の比率
2025年の市場
における規模の比率
2017年~2025年
年平均成長率
電子決済関係 89% 70% 12.8%
個人向け金融 9% 24% 31.2%
法人向け金融 2% 6% 35.9%

電子決済関係:モバル決済(電子財布を含む)や決済プラットフォーム
個人向け金融:個人や世帯向けに金融サービス全般(借入、貯蓄、資産運用、PtoP金融)
法人向け金融:中小零細企業向けの資金調達、与信管理、会計や決済等

4-2. ベトナムのFintech分野別の取引額/利用者数予測

統計の取り方や予測の仕方などは各社によってまちまちの為、他の会社が出しているFintech市場のデータとも見比べてみます。下記はstatista社が発表しているベトナムFintech市場調査データとなり、Solidiance社のレポートとは分類や数値が異なりますが、下記のように市場が伸びていく見込みと予想されています。

・Digital Payment:電子決済やe-walletなどの利用
・Alternative Financing:法人金融向け資金調達(出資等)?
・Alternative Lending:クラウドファンディング等によるオンライン貸出?
・Personal Finance:個人向けの金融

(1)ベトナムFintechの取引金額

(単位は、万ドル)

Digital Payment Alternative Financing Alternative Lending Personal Finance
2016 503,780 10 20 1,000
2017 614,870 20 80 1,900
2018 737,220 40 250 3,580
2019 864,610 80 620 6,340
2020 991,150 130 1,350 10,200
2021 1,111,940 190 2,510 14,840
2022 1,223,310 270 4,080 19,750

市場規模で見ると圧倒的にDigital Paymentが大きく現在73.7億ドルとベトナムのFintech市場における取引額の99%を占めていることになります。

しかし例えば今年2018年から4年間の伸び率では、Digital Paymentがわずか66%の伸びに対して[wc_highlight color=”yellow” class=””]Alternative FinancingとPersonal Financeは5~6倍も増え、Alternative Lendingも15倍超増える見込み[/wc_highlight]とこの分野の成長が期待できそうです。

(2)ベトナムFintechの利用者数

(単位は、人)

Digital Payment Alternative Financing Alternative Lending Personal Finance
2016 43,240,000 112 511 76,336
2017 45,790,000 102 1,863 80,169
2018 47,960,000 116 5,303 85,605
2019 49,780,000 154 12,016 92,867
2020 51,250,000 187 23,987 101,070
2021 52,440,000 217 41,667 109,690
2022 53,380,000 254 64,414 118,002

利用者数で見ても圧倒的にDigital Paymentが圧倒的(おそらくカード決済者なども含まれていると推測)ですが、2018年から2021年にかけてわずか11%しか増えません。

またPersonal Financeも現在8.5万人利用者がいるので38%の増加にとどまり、一方で[wc_highlight color=”yellow” class=””]Alternative Financingは120%増加ですが法人と見られることから数自体は少ないです。一方でAlternative Lendingの利用者は、5,300人から11倍超も増える見込み[/wc_highlight]となります。

(3)ベトナムFintechの1人あたりの年間取引額(決済額)

(単位は、ドル)

Digital Payment Alternative Financing Alternative Lending Personal Finance
2016 117 890 392 131
2017 134 1,953 430 237
2018 154 3,458 471 418
2019 174 5,203 516 683
2020 193 6,970 563 1,009
2021 212 8,773 602 1,353
2022 229 10,621 633 1,674

上記をグラフ化したのがこちら

1人あたり取引(決済)額は4年後にDigital Paymentで49%増加、Alternative Lendingでも34%増加ですが、[wc_highlight color=”yellow” class=””]1件当たりの金額が大きいAlternative Financingでは2倍超増える見込みであるものの、一番伸びるのは現在の3倍増加するPersonal Financeの分野[/wc_highlight]という予測結果になります。

NEW2018年11月24日ベトナムの個人向け金融(Personal Finance)の分野について調べて記事を公開しました。

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