ベトナムのFintechにおいて現在は決済・電子財布(e-wallet)関係が大半であるものの、今後伸びが大きいのは個人向け金融や法人向け金融の分野と言われていることについて前回紹介いたしました。では、具体的にどのようなサービスがベトナムで展開されているのか、まずは個人向けの信用力の判定・クレジットスコアリングという観点で調べてみました。
目次
1. ベトナムで個人の信用力をどう測るのか?
お金を貸す側にとって貸す相手にどのくらい信用力があるのか・・・貸したお金をちゃんと返してくれるのか・・・貸せるならどのくらいの金利が妥当なのか(リスクに見合うのか)・・・というのは重要なポイントです。
一般的にお金を借りる場合は、担保(土地や不動産)を提供したり、収入が証明できるものを提出したり、過去の借入/返済履歴を確認したり、保証人を立てたりという手続きが思い浮かびますが、判断まで時間や手間暇がかかりお金がすぐ必要というニーズに対応できない、判断や対応する人手(人件費)がかかり結果コストが金利に反映され高くなってしまう、さらには担保が無く保証してくれる人がいないケースも多いです。
ベトナムでカードが1.5億枚発行されているが複数枚保有者やDebitカードが多い
またベトナムの場合はこれに加えて、[wc_highlight color=”red” class=””]国外の親族からの送金や副業などもあり収入を証明できるものがはっきりせず返済能力が不明である、身分証や収入証明などの偽造の可能性、信用情報機関が先進国の様には整備(データが蓄積)されておらず過去の信用履歴などが確認できない人も多い点、さらには田舎など銀行口座自体を持っていない人も周辺国に比べて多い(銀行口座保有率はこちらで過去に紹介しましたが60%程度)、未回収となった場合回収も困難といった固有事情[/wc_highlight]があります。
ベトナムの農村では銀行やATMが無くても3Gや4Gでネットを利用できる場所も多い
ベトナムでは消費や投資の拡大に伴いお金を借りたいというニーズは増加しておりますが、上記のような理由で既存の金融サービスが活用できない人の場合、伝統的な親族間/集落内での借り入れ、闇金融(年数十%~数百%でベトナムでも違法・社会問題化している)に頼るしかありませんでした。
一方で急速に普及したワイヤレスネット環境(4G/3G)、スマホ所有増加に伴い、今までとは全く違うやり方で個人信用力の判断を行うFintechサービスが広がりつつあります。
1-1. SNSや通話先情報を見て与信判断~Trusting Social~
ベトナムのノンバンクで最大手は、以前紹介したFE credit社が有名ですが近年業績を急速に伸ばしているのがHome Creditという会社です。
チェコ発の会社でベトナムへは2008年から進出したという後発の会社ですが、報道によると2015年に147万件で9兆8,000億ドン(約490億円)であった貸出が2017年に360万件28兆9,000億ドン(約1,445億円)へと3倍に拡大。この業績拡大を支えたのは、10分程度での与信判断を可能とするTrusting Social社が開発したクレジットスコアリングサービスによるものとあります。
このサービスでは、お金を借りたい・割賦販売などを利用したい人は、一般的な申請内容と合わせて自身のSNS(Facebook、LinkedIn、Twitter、Weibo)や携帯電話番号も申請します。申請された内容を元にTrsutingScocial社のソフトウェアが[wc_highlight color=”yellow” class=””]SNSから個人情報(投稿内容や繋がり等)を収集、また通話履歴や通話相手の情報(上記報道では、「通話相手の友人や家族の記録も取り込み、本人の信用情報を数値化している」[/wc_highlight]とありますが、携帯電話会社からどこまで個人情報を提供されているのかは不明)を受けて、それらを元にAIが信用力を判定するとのことです。
TrustingSocial社では、申請された内容は信頼できるのか(詐欺の検出)、その人の人的ネットワークの品質、財務的な信頼性(学歴や職歴に基づき所得の信頼度を推定する)といったことができるとPRしている。
AIがどういうロジックで判定しているのかについては、公開されていませんがこちらのForbes Vietnam社による2018年10月15日のインタビュー記事によると、平均的なベトナム人は毎月の収入の0.3%を電話に費やしている為、取得した通話履歴などからその人の収入を見積もっていることや、誰と通話したのか、どのくらい電話を掛けたり受けたりしたのかといった情報(携帯電話会社から提供を受けたデータ?)を人的ネットワークの質判定に活用したり、電話の位置やネットや水道光熱費といった数多くのデータも活用して信用力を判断しているとあります。
Trusting Social社の経営陣。博士号をもつBig Date分析やAIのベトナム人専門家をトップに、世界的な金融機関で経験を積んだ欧米人も加わっていることがわかる。
優れたサービスであることから与信1回あたり1000万ドン(約5万円)以下ではコスト割れするというくらいの金額をTrustingSocialは取っている様であり、業績も好調なことからViettelより数百万ドルの資金調達にも成功し、東南アジア各国(インド、フィリピン、インドネシア、シンガポール)へ展開をしています。
1-2. SNS情報も判断材料にするソーシャルレンディング~Tima~
SNS(Facebook)などの情報を見て信用力の判定に活用しているのが、ベトナムのソーシャルレンディング(P2P金融)で最大手とも言われるTimaというサービスです。
2015年に創業した会社ですが今年10月には、カンボジアの投資会社から300万ドルを調達するなどビジネスを急拡大させています。プラットフォームTimaを通じて貸出者3万人と借入申込者254万人(1日あたり約1200件)をマッチングさせ、融資実行の実績は392万件で52兆6,462億ドン(約2,632億円)にもなります。余談ですが計算上ベトナムのP2P金融における貸出成功金額は、1件当たり平均1,344万ドン(約6.7万円)であることがわかりますね。
上記はTimaのサイトですが、「給与所得者向け」「住宅保有」「バイク保有」「分割払いで借入」「請求書の支払い用」「自動車保有」「iPhone保有」「学生向け」「PC保有」といったジャンルに分かれており、それぞれに応じて審査方法などが若干異なるものと推測されます。
SNSの活用についてはこちら(ベトナム語のニュース記事)に書かれていますが、ソーシャルネットワーク上の情報を取得し、例えば、Facebookに本名で登録している方が信用力は高い可能性がある、人間関係が豊かであったり有名人との社会的関係を持っている人の方が信用力が高い可能性があるといった、何千箇所ものデータを元にAIが信用力を判定しています。そういったデータを元にマッチング=貸し出しの成功に繋げているものと考えられます。
1-3. 心理テストも活用して迅速な融資を実現~LenddoEFL~
シンガポールのLenddoEFLは、インドやインドネシアなど新興国20ヵ国でビジネス展開をしており、今まで50以上の金融機関を通じて600万人に対し20億ドル以上の融資を実行したという会社ですが、今年2018年1月にベトナムにも進出。
どのようなサービスであるかは、こちらの資料や下記動画(英語)で紹介されていますが、[wc_highlight color=”red” class=””]SNSやスマホ内の個人データに加えスマホ上で心理テストを行い、いくつかの質問に応えさせた結果も交えてAIが信用力を判定[/wc_highlight]しているとあります。
具体的には、ベトナム地場のオリエント商業銀行(OCB銀行)の消費者金融ブランドCOM-B(OCB Consumer Finance)が行う迅速な低所得者層向けローンの実現にあたってLenddoEFL社のサービスを活用と発表されています。
1-4. スマホ内の個人情報から信用力を判定~Credo Lab~
以前紹介したベトナムの金融商品比較サービス(カード、無担保ローン、保険)のGoBearは、2018年11月にCredoLab社と提携をしてAIを活用した信用力の審査アプリ『Easy Apply』の提供を発表しました。
このアプリは、スマホ内における最大12万もの特徴や顧客の行動特性を調べるとあり、例えば「夜間にWEBサーフィンをどのくらいしているのか」「勤務時間中の着信コール数」といった取得できるあらゆる個人データを活用して、AIがその人の信用力を判定するとあります。CredoLab社のアプリを使った信用判断プロセスについてはこちらの動画(英語)がわかりやすいです。
その信用予測能力は、ジニー係数で最大0.6とあり既存の業界平均の0.3を上回る=それだけ信用力の予測精度が高いと報じられており、Easy Applyを開発したCredoLab社ではこの技術をインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン、メキシコ、モンゴル、ジョージア、中国といった国々の40の銀行やFintech企業に提供しています。
これまでは、GoBearのサイト上で無担保ローンを比較し申し込んでも銀行側の審査で撥ねられるケースも多かったと思われますが、[wc_highlight color=”yellow” class=””]このアプリ判定されたデータも一緒にGoBearを通じて申請することで審査が通りやすくなる=お金を借りれる人が増える=結果GoBearに支払われる仲介手数料が増える[/wc_highlight]ものと考えられます。また保険などの申し込みにおいても、その人の性格や行動特性などを元にリスクが判断され、今後保険料が変わってくるのではないでしょうか。
1-5. クレジットスコアリングだけを提供する会社も~creditscore.vn~
上記で取り上げたTrustingSocialと同じ分野の会社ですが、ECサイト、銀行、P2P金融などに対してクレジットスコアリング情報を外部からAPIという形で提供する会社も登場しています。Fiboという会社が運営するCreditScoreというサービスです。
こちらの会社も一般消費者から申請された情報を元に、[wc_highlight color=”red” class=””]Facebook内のデータ、携帯電話会社からもらうデータ、所属している法人のデータ、ベトナムの信用情報センター(CIC)内のデータなど複数ソースの情報を活用してAIが判断、その人の信用力を判定して企業に通知[/wc_highlight]しています。
この会社がユニークなのは、上記画像にある様にECサイトに対してもこのサービスを売り込んでいる点で、ECサイト内に彼らのサービスを組み込むことで閲覧者が自身の信用力をその場で確認できるようになり、割賦販売などを申込しやすくする(信用力が通知されるので審査に通りやすくなり結果ECサイトの販売増につながる)という点をPRしています。
2. Fintechを活用した信用力判定は、今後もさらに拡大
現在ベトナム国内の銀行では、様々な種類の無担保ローンが提供されており例えば先日の報道において、
・Standard Chartered Bank 上限9億ドン(約450万円)で金利14%の無担保融資
・ShinhanBank 電話のみで来店不要、金利16~22%の無担保融資
・CIMB 月収600万ドン(約3万円)から対象、2億ドン未満は金利17.9%、2億ドン以上は16.9%
といった条件で貸出をしていることがわかります。
今後、Fintechを活用した個人向けの与信判定が広がることで、さらに選択肢が広がり[wc_highlight color=”red” class=””]人によっては、より低い金利や好条件での迅速な無担保借入ができるようになる[/wc_highlight]のではないでしょうか。
またベトナム国外にも目を向けた場合、世界銀行によると全世界では17億人もの成人(成人人口の31%)が銀行口座を持っておらず、2億もの中小・零細・家族経営のお店といった事業体においても担保や信用履歴が無いため適切な資金調達ができないと発表されています。
一方でその17億人のうち3分の2にあたる約11億人が金融サービスへアクセス可能な携帯電話やスマホを所有しているという現実があり、今回取り上げた様なFintechサービスを提供する企業による、個人情報という資産を評価して信用力に変えるサービスが世界中で拡大していくと考えられます。
3. ベトナムでのビジネスやソフトウェア開発をお考えならバイタリフィへ
バイタリフィ・Vitalify Asiaでは、ホーチミンで2008年から10年超のベトナムにおけるビジネス経験や、ベトナム人エンジニアを使ったソフトウェア開発経験/実績を活かし、今後ベトナム国内やアジアへ向けてITサービスを開発・展開したい、ソフトウェアを作りたいという企業をサポートしております。
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