以前、各種サービス事業者によるFintechについて取り上げましたが、今回はベトナムにある銀行のFintechへの取り組みについていくつか調べてみましたので紹介します。

1. デジタルバンクを2つ作ったVP Bank

以前取り上げたベトナム最大手の消費者金融会社FEクレジットを傘下におくベトナムの民間商業銀行VP Bankは、2017年8月にホーチミンの証券取引所に上場、2022年までに国内銀行業界でトップグループ入りを目指すと発表しており、その戦略の1つとしてデジタル化に力を入れています。

VP Bankは、既にTimoという個人向けにデジタルバンキングのブランドを持っていますが、2018年10月に同じく個人向けとしてYOLOという別のデジタルバンクも発表しました。

VP BankのWEBではYOLOを大きく宣伝している

日本語での情報がほとんどないYOLO、調べていくと通常の銀行とは違う特徴や、ベトナムの銀行におけるFintechへの取り組みが見えてきます。YOLOとの比較の為、まず検索すれば日本語でも情報がたくさん出てくる(口座開設も可能)なTimoについて紹介します。

1-1. 銀行としての利便性を追求したTimo

Timoは、ベトナムの銀行における新しいスタイルとして注目されているサービスです。

ネット(スマホアプリ、WEB)を使った金融サービスを提供するスタイルであり、目標に向けての自動積立などアプリならではの機能とUIを用意しています。また既存の銀行のATMインフラを利用して現金の預け入れと引き出しといった物理的なサービスも実現しています。

1-2. Timoの店舗は最小限


ハングアウトと呼ばれる店舗を、ホーチミン、ハノイ、ダナン、カントーに各1箇所ずつ設置しており、店舗はカフェ風で銀行っぽさが無く、法律上必要な対面でのKYC(Know your customer = 本人確認)と、ATMカードの発行場所という位置づけと見られています。

1-3. Timoの”他銀行”と比べての優位性

・ATMカードを即時発行してくれる(他行では何日もかかる)
・VP銀行の金融商品(定期預金、当座貸し越し)、保険、投信などが利用可能
・あらゆる銀行手数料が無料もしくは、安い
・VP Bankや他行を含めてATM利用料が入出金が基本的に無料(一部例外があり)
・他行への無料振込
・年会費無し

補足するとベトナムでは、日本と異なり平日の日中でもATM手数料がかかったり、ATMカードの維持費や口座維持費といった手数料を請求する銀行も多い為、都市部の若い層を中心に人気のある金融サービスとなります。

VP Bankと提携することで[wc_highlight color=”red” class=””]基本的な金融サービスは提供しつつ、店舗や人員といったコストを抑えて高いサービスを提供しているTimo[/wc_highlight]。では、そんなデジタルバンキングが既にありながら新たに始まったYOLOとはどんなサービスなのでしょうか?

1-4. 新たな試みのデジタルバンクYOLO


YOLOでは、以下のようなメリットを上げています。

・会員ポイント制度
・バーチャルMasterCardを発行
・スマートペイメント支払いシステム
・スーパーYOLO普通預金口座

まずは、YOLOのサービスを調べて気づいた特徴を3つほど紹介します。

1-5. YOLOの特徴(1):様々な支払いへの対応

サービスの紹介で一番強く打ち出しているのは、YOLOを使った様々な支払いができることについてです。
レストランの注文、フードデリバリーの注文、映画館の予約支払い、タクシーの予約および支払い、飛行機や鉄道チケットの予約、ホテルの予約支払い、公共料金の支払い、CATVやネット料金、プリペイド携帯へのチャージ、在宅健康診断サービスを予約etc また個人向け傷害保険パッケージなどへも、特別な割引が適用されYOLO内で申込が可能とあります。

またトランザクションを増やす為、YOLO内において支払い取引が行われるたびに、取引額の最大0.2%がポイント還元されるとありポイントがたまる分、同じ支払いをするならYOLOを使って支払いをした方がお得・・・[wc_highlight color=”red” class=””]YOLO内だけで完結する決済を強く推していること[/wc_highlight]がわかります。

1-6. YOLOの特徴(2):アプリ内バーチャルMasterCard

YOLOのサイト内で支払えないものもありますしYOLOのユーザー層となる20代の若者層は、ネットで様々な買い物をします。そういった時の支払い手段として用意しているのがアプリ内で表示するバーチャルMasterCardです。

これは通常のMasterCardと同じ16桁の番号をアプリ上で表示して、外部サイトでの決済時にカード番号を入力して支払いできるものとなります。物理的なカードではない為、紛失・盗難や、スキミングといったリスクを避けることができ、かつスマホを持ち歩くだけで、いつでもどこでも利用が可能なカードとなります。

1-7. YOLOの特徴(3):法規制を反映したサービス設計

YOLOの特徴として会員(登録)が2段階になっている点に目がつきます。まずは通常会員として名前、携帯電話番号、メールアドレスだけで口座を開設できます。このタイミングで口座への入金をしたり、YOLOが提供する各種サービスへの支払いはできるものの、他行への振り込みやATMでの引き出しなどはできません。その後、希望する人は、KYC(本人確認)を済ませるとプレミアムアカウントにアップグレードできる=できることが増えるという流れになります。

プレミアムアカウントにするとYOLO内で使える15万ドン(約700円)がもらえるといったキャンペーンも実施中

興味深いのは、[wc_highlight color=”yellow” class=””]KYC(本人確認)のやり方で提携店舗へ来店(VP銀行の支店?)か、時間と場所を決めるとYOLOの担当者が自宅やオフィスなどにやってきて本人確認をするといったアナログな手続きが入っている[/wc_highlight]点です。これは、ベトナムの法規制に沿ってプレミア会員になることが=法規制上の銀行口座開設者という扱いになるためと考えられます。

最初からいきなり本人確認を入れてしまうと一気にハードルが上がってしまう為、まずは簡単にアカウントを作れるようにして法規制の範囲内でできるサービスを提供し、ステップアップさせていくというサービス設計と考えられます。

1-8. YOLOは、VP Bank版の電子財布では?

このYOLO、デジタルバンクと打ち出していますが事実上、電子財布サービス(VP銀行版の電子財布)なのではないかと考えられます。

なぜそう見えるのかというと注目したいのは手数料の個所でYOLOの口座同士であれば手数料は無料ですが、VP Bankを含む他行口座への振込手数料は、有料としている点です。

アップグレードしてATMカードを手に入れ、ATMで引き出した場合の手数料もTimoの様に無料とは打ち出していません。そもそもWEB上では、Timoの様に、一般的な銀行口座機能である他行への振り込みやATM出金の利便性についてほとんど紹介されていません。


YOLOの手数料(2019年2月1日時点)。無料「Miễn phí」なのは、入金やYOLO口座同士での振り替えやYOLO内機能を使った支払い。外部口座へは1回1.5万ドンの振込手数料が発生。

一方で口座への入金は無料、YOLO内にある各種支払いサービスや提携パートナーへの支払いは全て無料でかつ、ポイントもたまるとしています。つまり[wc_highlight color=”red” class=””]お金が入ってくることは歓迎だけど、YOLO内の支払いサービス以外の出金は、非推奨(あまり使ってほしくない)という方針[/wc_highlight]が見て取れます。

では、なぜVPバンクは、このような電子財布とも言えるYOLOを作ったのでしょうか?筆者は、VPバンクの関係者に聞いたわけではありませんが、最近のベトナムにおけるFintechビジネス環境からその理由を推測してみました。

1-9. YOLOを作った理由(1):既存電子財布サービスへの対抗

ベトナム政府が非現金決済を後押ししていることもあり、電子財布サービスの利用者が増えております(以前取り上げた通り、現在1000万とも言われています

現在26もの電子財布や決済関係のライセンスを取得した会社があると言われており、電子財布専業だけでなく既に大きな存在感のある配車アプリのGrabなども、電子財布のMocaと提携してチャージ残高をGrab以外でも利用=決済インフラ化を狙っています。

ベトナム電子財布最大手のMoMoは、ノンバンクのHome Creditなどとも提携して電子財布上で借り入れを受け取ったり返済したりということをできるように動いています。

こういった状況から[wc_highlight color=”red” class=””]いままで銀行が行ってきた貸し出しによる収益や、各種支払いによる手数料といった収益が、全て電子財布に取られてしまうという危機感[/wc_highlight]があるのではないでしょうか。

1-10. YOLOを作った理由(2):金融サービス開発のためデータが欲しい

上記電子財布は、様々なサービスの支払いに対応することで大量のライフスタイルに関する個人データデータが蓄積されて行く事になります。

一方で銀行口座が各種支払いに使われなくなっていくと、銀行にはデータが貯まらなくなっていきます。

以前紹介した通りベトナムでもスマホやSNS内のデータを使用した与信などが始まっており、個人データを使った金融サービスはますます広がっていくはずです。その提供の為にも個人データの蓄積が可能なプラットフォームとしてデジタル銀行を作ったのではないかと考えられます。


YOLOのターゲットは、消費が活発な10代後半~20代

また銀行(口座)であるが故、[wc_highlight color=”red” class=””]「正確な名前・年齢・住所・職業、収入といった個人データとの紐づけができ」「低コストでの貸出原資の調達や、融資を含めたフル金融サービスの提供もできる」ため、ある意味理想的なFintechプラットフォーム[/wc_highlight]とも考えられます。

以上、VPバンクのYOLOを取り上げましたが他のベトナムの銀行では、どのようなFintechサービスが提供されているのかについても見てみます。

2. ビデオ会議を使った無人店舗~TPBankのLiveBank~

銀行のATMコーナーなどにビデオ会議ができる専用端末を設置し、24時間365日オープンしている支店として打ち出したのがTPBankが運営するLiveBankです。

銀行口座開設を含むほとんどの取引に対応していると打ち出しており、ビデオ会議での顔認識システム(Te-YC)を通じてKYC(本人確認)を実現し、中央銀行も認めています。なお口座開設はできても、ATMカードがその端末から自動で出てくるのではなく、受け取り場所の支店を指定するなどして5~7営業日かかるとあるので、この辺はTimoの方が優れていますね。

ベトナムの銀行は17時くらいまで窓口が空いていることが多く日本よりは長いですが、こちらの報道によると[wc_highlight color=”red” class=””]LiveBankの取引の約64%は銀行営業時間外に発生しているとあり、17:00~20:00の時間帯に29%取引がある[/wc_highlight]とあります。
よって銀行窓口が空いていない時間帯の銀行取引ニーズの取り込みには成功しているようであり、また顧客の80%が35歳未満ということで、若い層の獲得にもつながっているサービスです。

こちら将来的には、(法規制や監督官庁の許可が必要にはなるものの)専用端末ではなくスマホで同じことができる様になっていくものと考えられます。

3. ATMカード無しにATMからお金が引き出せる~Techcombank~

Techcombankのモバイルアプリ(ネットバンク)上では、出金金額を指定するとスマホアプリ上に専用のナンバーが表示されて、それをATMへ入力すると即座に現金の引き出しができるというサービスを開始しています。[wc_highlight color=”yellow” class=””]普段からATMカードを持ち歩かなくても良いため、カードの紛失・盗難やスキミングの心配も不要[/wc_highlight]となります。

こちらの動画はベトナム語ですが、どのような流れなのか確認できます。

4. ERPデータを用いた中小企業向けの与信~VIB銀行とKiu ERP~

VIB銀行では、Kiuという会社と提携してクラウド型のERP(Enterprise Resources Planning)を活用した中小企業向けの与信とそれに伴う融資を行っています。

企業管理ソフトウェアKiu ERPを使用すると、販売、生産、経理、在庫管理、人的資源から顧客関係まですべての企業情報がソフトウェア内に蓄積されてきます。

そのデータを活用することで、社歴が浅くて実績が少ない、担保がない中小零細企業でも融資対象としてどのくらい信用力があるのか判断でき、迅速に融資が実行できるといったサービスです。このKiu社はアメリカにも法人がありアメリカでは自ら融資を実行しているようですが、ベトナムでは法規制の関係からVIB銀行と組んで、VIB銀行より迅速な融資を実行している様です

5. Fintechサービス開発や提携に積極的~親韓銀行~

ベトナムにある外資系の銀行の中でおそらくベトナム国内向けに一番力を入れているのが、韓国系の銀行である親韓銀行(SHINHAN BANK)です。ベトナムから撤退したANZ銀行の支店も買収し、在ベトナムの外資系銀行ではHSBCを抜き最多の店舗数を持つ銀行となります。

この銀行は、金融ITサービスの開発の為SHINHAN DS VIETNAMや、ベトナムの若い起業家と繋がるためのSHINHAN FUTURE’S LABといった新興企業育成プログラムも用意して新しいサービスを開発しています。

また電子財布のMoMoと組んで、MoMoのアプリ上でSHINHANへの融資申し込みをできるようにしたり、(出稼ぎ労働者などが)韓国から送金したお金をMoMoで受け取れるようにするといったサービスも既に展開しています。

SHINHAN BANKは、今後ベトナムの銀行のFintech分野において、より注目される存在になるのではと考えられます。

6. ベトナムでのビジネス展開やソフトウェア開発ならご相談ください

ベトナムの銀行のよるFintech事情についてはいかがでしたでしょうか?バイタリフィVitalify Asiaでは、ホーチミンで2008年から10年超のベトナムにおける経験を踏まえ、このような現地ビジネス事情の情報提供も行っております。

ベトナム人エンジニアを使ったソフトウェア開発経験/実績を活かし、今後ベトナム国内やアジアへ向けてITサービスを開発・展開したい、ソフトウェアを作りたいという企業もサポートしております。

Javascriptを使ったフロントエンド開発』や『アジャイル・スクラムでのサービス開発』、独自の『ベトナム法人設立前にベトナムをお試しできる拠点開設プラン』、『AI導入をお考えの方に精度や効果を無料で確認してから開発の判断ができるサービス』など様々なご要望に対応できます。

いずれもお気軽にご相談くださいませ。

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