ベトナムの都市部で昨年くらいから認知度が一気に上がったスマホアプリを使ったフードデリバリー(宅配)市場。そこに後発ながら短期間で存在感を出しているのが配車アプリ最大手のGrabです。今回は、その状況について調べてみました。
目次
1. 動画解説で見るフードデリバリー市場におけるGrab
動画で『ベトナムのフードデリバリー事情』について紹介をしております。今後もベトナムのITビジネス事情について動画で配信していきますので、チャンネル登録をぜひよろしくお願いします。
2. ベトナムのフードデリバリー市場規模
報道によると・・・
・2018年の推定値は3,300万ドル(約36億円)、年間平均11%の成長率で拡大中
・2020年には3,800万ドル(約42億円)を超えると予想されている
という状況です。
2-1. フードデリバリーが盛り上がる社会背景
ベトナムでフードデリバリー市場が急速に拡大しているのには、3つの理由がある様に見受けられます。
(1)配車アプリというサービスインフラが既にあり、フードデリバリー専業ではなく、配車アプリ会社がその資本力も活用し参入してきたこと
(2)都市部で働くホワイトカラー(オフィスワーカー)の増加、都市人口の増加
(3)物件賃料の高騰で飲食店の新店舗を出すより、宅配で売り上げを拡大した方が投資対効果が高い(と考える人も増えた)
この3番目のポイントについて補足すると、Cushman&Wakefieldのデータで2018年第3四半期の市場全体の飲食や小売り平均賃料は、前四半期と比較して5.6%増加し、前年同期比で7.4%増加するなど上昇傾向にあります。また条件の良い新規物件によっては、月54.5米ドル/平米といった高額の家賃が設定されているなど、立地の良い場所にお店を出すハードルは上がっている状況が伺えます。
2-2. リピータも増えているが競争も激化
市場調査会社のGCOMMによると調査対象の消費者の99%がオンラインの食品注文サービスを月に2~3回使用していると答え、39%が週に2~3回サービスを使用しているなどフードデリバリーを手放せないリピータが増えてきている様子が伺えます。
一方で
・2018年10月Scommerceが運営するLalaは営業半年で終了
・2019年3月上旬Vietnammmは、Woowa Brothers(Korea)により買収されると発表
といった競争激化で再編の動きがさっそく出ている状況です。
3. Grabはサービス品質を確保しつつ短期間で急拡大に成功
配車アプリとして2014年くらいからサービスを展開しているGrabですが、フードデリバリーのサービスを開始してからは、まだ1年も経っていない状況です。2018年6月ホーチミンで正式にサービス開始しましたが、既にライバルのGO-FOOD、Vietnammm、Lalamove、Loshipなどがいた中で後発として参入でした。
しかし驚くべきはその後の展開の速さであり、2018年10月にハノイ、11月にダナンへと急速に拡大し開始後7か月以内に15の都市と省で175,000人の広範囲に及ぶドライバーパートナーのネットワークを構築してかつ、宅配の速度もライバルを凌駕する平均20分の納品時間へと最適化することに成功しています。そのため2019年1月のアンケート結果では、ハノイとホーチミンで最も利用されている宅配サービスとなりました。
また出資先である電子財布モカによるGrabPayを介した食料配達のキャッシュレス支払いは、ハノイでベータテストされており、GrabFoodが現在運営している3都市すべてにまもなく拡大される見込みです。
機能も充実しており、顧客が自分の食べ物を配達している運転手の位置を追跡できるチャットボックス機能(GrabChat)、ユーザーの位置を自動的に検出して近くのレストランに基づいて推奨する機能もあります。
Grabの統計によると、フードデリバリーサービス(GrabFood)が追加されて以降、Grabバイクドライバーの収入は約26%増加しており、パートナーである運転手にも好評を得ている様子が伺えます。
4. 宣伝広告に力を入れている宅配各社
では、なぜ後発のGrabがフードデリバリーで一気にシェアを高めることができたのでしょうか。理由を調べていくとその資本力を存分に活用した様子が伺えます。例えば、開始後最初の数ヶ月間10%の割引率を提供するなどプロモーションにも力を入れていましたし、さらにGrabFoodと競合のGoVietの両社は、有名人と数十万ドル相当の契約を結んだと報じられています。
具体的には、GrabFoodがベトナムで国民的大人気となったU-23サッカーチームのゴールキーパーBui Tien Dungを広告塔にする一方、ライバルのGo-Foodは歌手のSon Tungと契約して宣伝活動をするといった具合です。
またGrabは、単に有名人を活用するというだけでなく下記のような共感を呼ぶ動画を作るなどして、ソーシャルメディア上での話題を作るようなこともしています。(公開後1ヶ月で1500万回近く再生された動画で、ベトナム語がわからなくても何となく意味が分かります)
5. フードデリバリーにおけるGrabの独自性
短期間で急拡大した他の理由も探ってみます。GrabFoodのユニークな点は、顧客を引き付けるために割引やプロモーションプログラムを提供することだけでなく、ベトナム料理の多様性を利用して地域ごとの様々な好みに対応することに力を入れていることになります。
対応する店舗も小規模な飲食店から、ベトナム全土に展開するチェーン店、有名なレストランまで、ベトナムで見つけることができるほとんどすべての料理に対応していることや、「ユニークな食べ物」というプログラムを通じGrabFoodと加盟店とが共同開発したGrabFood専用のメニュー・創作料理が好評を得ています。例えば、GrabFoodとMcDonald'sが組んだメニューもあるなど特色を出しています。
6. ベトナム消費者からのGrabFoodの評価
どの会社がどのくらいのシェアを取っているのか直接的なデータが見つからなかった為、いくつかの調査結果からGrabと競合会社の状況を確認してみます。
2019年1月にホーチミン市とハノイで803人のユーザーを対象にKantar TNSが実施したオンライン調査の結果では、ベトナムで最も頻繁に使用されている食品配達サービスとしてGrabFoodは68%の票を獲得しました。競合のNowが19%、Go-Viet(Go-Food )が1%程度の票を得ていることからGrabの強さがわかります。
市場調査会社GCOMMによるアンケート調査結果では、現在5つの重要な要素でGrabは高評価を得ており競合他社を「ノックアウト」していると指摘しています。
・料理の配送スピード:65%
・料理が清潔にかつ、きちんとパックされている:58%
・保証された品質で料理が配送されている:56%
・注文された場所へ正確に配送されている:50%
・手頃の価格の料理が数多くある:45%
また回答者の80%は、Grabフードが最も早く届けてくれる宅配サービスと回答しています。参考までにGrabFoodの平均配達時間は、前述の通り約20分であり、Now.vnの25分とLalaの30分よりも早く国内最速の宅配サービスプロバイダとして認識されています。
ハノイとホーチミン市の600人を含む市場調査会社GCOMMによる世論調査でも、回答者の98%がGrabFoodのサービスに満足していると回答し満足度指数では、5段階評価でGrabが4.46、Nowが4.31、Go-Viet(Go-Food )が4.1となっているなどGrabが評価でも非常に高いことがわかります。
以上のような結果から、現在Grabがフードデリバリーにおいてトップの地位にあると言えるのではないでしょうか?
7. Grabのベトナムへの投資額とその損失、資金調達
こういったGrabのベトナムにおけるビジネス展開を支えているのは、莫大な投資金額です。
首相に提出された最近の文書で、Grabはベトナムに1億米ドル以上(約110億円)を投資しており、2014年から2016年の間に9,380億ドン(4,000万米ドル=約44億円)の損失を出しています。また別の記事では、2014~2017年にかけてのGrab損益は、1.7兆ドン(約85億円)の赤字とあるので、2017年もさらに赤字を拡大させたことがわかります。
参考までに2017年Grabが事業を引き継いだUberVietnamは、2014から2017年の最初の6か月間(事業譲渡)までの総収益が2兆7,000億ドン(約135億円)以上ありかつ赤字だったとあるので、同時期のGrabも同等かそれ以上の収益を上げつつ全て事業拡大のため投資に注ぎ込んだ様子が伺えます。
こうした投資の資金源としてGrabベトナム法人の親会社であるGrabTaxi Holdings Pte. Ltd. は、今年末までにシリーズHラウンドで最大65億米ドルの資金調達目標を掲げており、これには日本のSoftBankも関係しています。2019年3月SoftBankのVision Fundから14億6000万ドルの投資を受けており、これまでにソフトバンクと他の戦略的パートナーなどから計45億ドルを調達するなど、こういったお金が巡ってベトナムでの迅速なサービス展開を支えています。
8. ベトナムでのビジネス展開やソフトウェア開発ならご相談ください
ベトナムでのフードデリバリー事情(Grab)については、いかがでしたでしょうか?バイタリフィ・Vitalify Asiaでは、ホーチミンで2008年から10年超のベトナムにおける経験を踏まえ、このような現地ビジネス事情の情報提供も行っております。
ベトナム人エンジニアを使ったソフトウェア開発経験/実績を活かし、今後ベトナム国内やアジアへ向けてITサービスを開発・展開したい、ソフトウェアを作りたいという企業もサポートしております。
『Javascriptを使ったフロントエンド開発』や『アジャイル・スクラムでのサービス開発』、独自の『ベトナム法人設立前にベトナムをお試しできる拠点開設プラン』、『AI導入をお考えの方に精度や効果を無料で確認してから開発の判断ができるサービス』など様々なご要望に対応できます。
いずれもお気軽にご相談くださいませ。
本記事内の画像や数値は、各ニュース記事やFacebookなどを元に引用や作成をしたものであり、その権利は各社に帰属します。