ベトナムオフショア開発の現場から動画付きで現地事情を解説します!
今回は、この12月にニュースとして報じられた『アメリカによるベトナムの為替操作国指定』についてです。なぜ為替操作国に指定されたのか?その判断基準や、今後バイデン政権でどうなりそうなのか、日本企業への影響と今後のチャンスについて紹介します。
目次
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2. 為替操作国指定とは、どういうことか?
アメリカ財務省は、1988年から毎年2回(ただし諸般の事情等で非常に遅れたり1回になったりする様です)、議会に対して為替政策報告書を提出しています。この中でアメリカとの貿易を有利にするため相手国政府が為替介入し、為替相場を不当に操作している国が為替操作国として指定されます。
指定されるとアメリカとの2国間協議においてその是正を求められることになり、決着がつかない場合はアメリカから高関税などを課せられるリスクがあります。
為替操作国への指定は、以下2つのアメリカ法律に基づき指定をされることになります。
・1988年法(包括通商競争力法)
・2015年法(貿易円滑化・貿易執行法)
今回ベトナムは、上記2つの法それぞれでにおいて為替操作国として指定されました。(また同時にスイスも指定されています)
3. 為替操作国に指定された3つの理由
上記表は、実際にアメリカ財務省が公表した為替報告書の65ページ目から抜粋しており、アメリカの主要貿易国ごとの状況を一覧で確認できます。赤字の個所が、下記条件への抵触個所で、赤枠がベトナムです。なおベトナムについての詳細は、為替報告書の48~55ページに記載されています。
2015年法では、為替操作国指定に客観的な3つの基準が設けられています。
(1)基準日より過去12ヶ月間の対米貿易黒字が200億ドル以上であること
(2)基準日より過去12ヶ月間の経常黒字が、その国の名目GDP比率の2%以上であること
(3)持続的な為替介入(ネット外貨買い自国通貨売り)が過去12ヵ月の間に少なくとも6ヶ月以上行われており、かつその金額がその国のGDPの2%以上であること
ベトナムの対米貿易黒字額は、580億ドルで(1)に抵触。経常黒字額はGDPの4.6%であり(2)に抵触。ネット外貨買いも6ヶ月以上行われておりかつその額がGDPの5.1%と(3)に抵触。3つの条件を満たしたことで為替操作国の指定を受けました。なお日本は(1)と(2)に抵触するため操作国ではないものの監視対象国です。
4. 為替操作国指定でどうなりそうか?
2021年1月に始まると言われているアメリカのバイデン政権では、国際協調路線を取ると予想されている為、すぐに高い関税をかけられるということは無いと考えられます。しかし状況が変わらない限り為替操作国指定からの解除も無いと考えられ、ベトナムとしてこれまで通りというわけにはいかないでしょう。
ではどこに影響が出るのか・・・どこでベトナムは、アメリカに対して譲歩するのでしょうか?
輸出で稼ぐ部分はベトナム経済の生命線でもあり、アメリカから買うモノやサービスがすぐに増えるわけでは無い以上、対米貿易黒字は減りづらいと考えられます。
海外に住むベトナム人(越境、日本など海外で働く労働者を含む)からの母国への国際送金額(2019年167億ドル)もベトナム経済の規模(2019年2,619億ドル)からすると非常に大きく、これが経常移転収支としてカウントされる以上、経常黒字比率もすぐには減らないと考えられます。
すると、これまでの様なベトナム政府による外貨の購入(ドル買いベトナムドン売り)がし辛くなると考えられるのではないでしょうか?
過去5年のアメリカドルとベトナムドンの為替レート推移でも、2018年の半ばよりドンの下落が止まりここ半年ほどは、ベトナムドンが若干強くなるなどトレンドは変わりつつあります。この背景にあるのは貿易で稼いだ黒字です。
今までベトナムドンと言えば、ドルに対して下落し続ける(切り下がる)通貨でしたが、今後は逆にドンが強くなる(切り上がる)可能性も出てくるのではないでしょうか?
なお日本総研のレポートでは、ドンが1%強くなると1.2%輸出を下押しするとあり、急激なドン高はベトナム政府として許容できないでしょうが表立って通貨安介入ができない以上、徐々にドンを強くしていくという方向に進む可能性はあるのではないかと見ています。
もしくは、民間による外貨購入(海外投資、ベトナムからの国際送金や持ち出し)に関する規制を緩和して、ドン高圧力を相殺するという可能性も考えられるのではないでしょうか。
5. 今後のリスクと可能性
ベトナムでの製造開発を行う会社(いわゆる製造業や、当社を含むITオフショア開発の会社)にとって、今まで為替面での懸念材料としては円安がありました。なぜならドンはドルに対して下落していったので、為替リスクは円がドルに対して弱くなることだけだったわけです。
しかし今後ドンがドルに対して強くなるという可能性が出てきたことで、円安+ドン高のダブルパンチの可能性も出てきますし、円高になっても同時にドン高であった場合は、メリットが出てこないことになります。
一方でベトナムの内需を狙う=ベトナムドンで稼いでいく企業にとっては、稼いだ金額が円換算した際に増える可能性が出てくるため、追い風になると考えられます。
6. こんなメリットもありそう?
今回為替操作国に指定されたことで、アメリカはベトナムの市場開放(アメリカ企業がベトナムへ参入しやすいようにすること)を今まで以上に求めてくるのではないでしょうか。
現在ベトナムでビジネスをしようとする場合、様々な外資規制がありそれをクリアしないとベトナムではビジネスができません。しかし、この外資規制が非関税障壁としてやり玉にあがる可能性があります。(日本でも70~80年代頃、非関税障壁が問題になりました。)ベトナムも今までは規模の小さい発展途上国だからという理由で大目に見られていたことが、そのように見てもらえなくなるわけです。
この辺がどう落ち着くのかは見えないところですが、規制が緩和された場合、日本企業も"外資"としてベトナム市場に参入しやすくなり、ベトナムでビジネスして稼ごうという会社にとっては追い風になるのではないかと考えられます。
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