新型コロナウイルスにより、多くの企業はその働き方の見直しを余儀なくされることとなりましたがそこで話題となった単語が「DX」です。もとよりITの活用の重要性は様々なところで説かれてきましたが、多くの人がDXを意識するようになったのは経産省が出した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」というレポートが大きなきっかけになったと言われています。
こちらの記事でもDXについて解説していますが、今回はこのDXに関するレポート、通称2025年の崖レポートについてより詳しく見ていきましょう。
1. 2025年の崖レポートの概要は?
DXレポートは経済産業省から2018年9月に出されたレポートです。
▶DXレポートの本文https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
▶サマリー、本文、簡易版
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
本文は約57ページに及び、ほとんどが文字なので、時間がない人はサマリーをみると良いでしょう。サマリーは図などを使用してわかりやすくなっています。
DXレポートでは「2025年の崖」という言葉が使われ、下記のようにまとめられています。
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション (=DX)の必要性について理解しているが・・・ ・
既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化 ・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、 現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている。
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜
2025年の崖とは、日本でDXが進まないがために、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じるというものです。
2. なぜ損失が起こるのか?
この損失は、大きく3つの要因によってもたらされます。
1つ目は、データの活用が進まずに市場の変化に対応することが叶わず、デジタル競争に負けるため。
2つ目は、レガシーなシステムなどの技術的負債が蓄積していき、システムの維持管理費が増大していくこと。
3つ目は、保守運用の担い手がいなくなり、セキュリティやシステムトラブルなどのリスクが高まること。
短期的な目線だけで構築したシステムは、どうしても負債を抱え易くなり、結果的に長期的に大きな損失を生み出す可能性があります。
2025年までにIT人材も約43万人不足するとの見通しが建てられており、誰がシステムを保守するのか、古い言語で書かれたものの場合はすでにかける人が少なくなって人材を見つけるのが難しいなどの問題が出てくるでしょう。
ベンダーは、そのような古いシステムの保守に時間と人的リソースを取られて、新しい技術へのキャッチアップができなくなり、世界的な競争にも負けていく可能性が高まっています。
3. なぜ日本ではDXが進まないのか?
では、なぜそのような事態が起こるのでしょうか?
日本でDXが進まない原因、システムの刷新が遅れる理由をレポートでは下記のように定義しています。
3-1. 経営層が既存システムの問題点を把握し切れておらず、対処できない。
レポートでは、多くの企業でDXの必要性に対する認識が高まり、そのための動きもあるとしていますが、実際にどのようにビジネスを変革させていくべきかは模索段階にあるとしています。
経営者からデジタルに対するビジョンと戦略がたてられず、ビジネスをどのように変えるのかの明確な指示も示されないまま、「AI使って何かできないか」と言った曖昧な指示が出され、一応仮説検証などは行われるものの決定的な変革には繋がっていないケースが多いようです。
また、レガシーシステムと呼ばれる古いシステムは、ドキュメントも整備されていないことが多く、ブラックボックスと化しています。しかしそれも、日常的には活用できているがために「潜在的問題」に留まっており、経営者が問題に気づきにくいという構造です。
➡ 解決のためには?
これを解決するためには、経営者がシステムの問題点や現状を把握できるように「見える化」する指標、中立的な診断スキームの構築が必要だと述べられています。
システムの問題をエンジニアだけに閉じずに、経営層にも見えるようにすることがDXを推進するための第一歩です。
3-2. 現場が新しい技術やシステム刷新に対し抵抗する
レガシーなシステムを使用しているような現場では特に、既存システムの問題を解消しようとするとビジネスのプロセスそのものの刷新も必要となる場合があります。
企業内で、各事業部ごとに個別最適された別々のシステムを使っていて、DXを推進するためにそれを統一しようとしても使い易く刷新リスクもない既存システムを使い続けたいという声が上がるとの報告もあるそうです。
こうして現場に抵抗されてしまうような企業では、DXが進みにくい状況が生まれています。
➡ 解決のためには?
DXシステムガイドラインを策定し、既存システムの刷新や新たなデジタル技術を活用するに当たっての「体制のあり方」、「実行プロセス」等を提示することが必要です。
現場の誰もオーナーシップを取らないという状況ではDXが進むはずはありません。誰がどのように指示を出し、どう実行していくのかをしっかりと策定して進めていくことが必要です。
3-3. システム刷新に時間・コストがかかるのでリスクがある
レポートでは、レガシーシステムの刷新についてこう述べられています。
レガシー問題を根本的に解消しようとしても、長期間と大きな費用を要する上、手戻り等の失敗のリスクもある中で、根本的にシステム刷新をするインセンティブが生じにくい。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
事例として、挙げられているシステム刷新のコストは7年間で約800億円、8年間で800万と言ったもので、確かに現状でそれほど問題なく動いているシステムを刷新する決定を下すのは難しいことが伺えます。
➡ 解決のためには?
システム刷新コストを削減するために、刷新の前に不要なシステムを判断し廃棄、マイクロサービスの利用、協調領域における共通プラットフォームの構築(割り勘効果)などが対策として挙げられています。
できるだけシステムを軽量に、小さく細分化して少しずつ新しくしていくことで、長期的に時間とお金がかかるリスクを抑えることが可能です。
3-4. 既存ベンダーとの新たな関係構築や、契約が必要となる
現状では、ベンダー企業へ開発を委託する企業の多くがユーザー企業が要件定義から丸投げしている状態です。この方法では企業のテクノロジー活用に対するコミットメントが薄くなりがちで、DXを進めるために開発体制をアジャイルなどに変えるのも難しいのが現実です。
ベンダー企業も、企業が何をやりたいのか、ベンダー企業として一緒にそれを叶えるためには何ができるのかを考えるなど、今までの言われたことをやるだけ、または全て「いい感じ」に作ってしまうだけの関係から脱する必要があるでしょう。
また、工数などで契約をしている場合、DX推進の時はその契約のまま行なっていくのは難しいと思われます。DXを推進していくためには仮説の検証を行なっていく必要があり、より柔軟な開発体制が必要だからです。
DXを進めるためには、ベンダー企業との協業の仕方を変えること、契約形態を変更することなども必要になってくるために足踏みしてしまう企業も多いようです。
➡ 解決のためには?
契約の見直しを行う他、技術研究組合の活用検討も施策として挙げられています。技術研究組合とは、産業活動において利用される技術に関して、組合員が自らのために共同研究を行う相互扶助組織(非営利共益法人)で、つまり組合員同士でお金や人員を協力しあって、相互に役に立つようなシステム構築をしていくことを指しています。
3-5. DX人材が不足している
多くの企業ではDX人材を確保できず、ベンダー企業に頼むことになります。ベンダー企業から出向してもらって、企業の業務やビジョンを理解しDXを進めることは有効な手段ですが、ベンダー企業にとってこの方法はあまりサステイナブルでないために、新たな形態での支援を模索する必要があるとレポートでは述べられています。
もちろん自社のDXを進める上で社内でDXが進められる人物を社員として雇う方が企業としてもコミットメントを強められるため良い選択肢です。しかし、少子高齢化も進み、IT人材不足が顕著になる昨今ではそのような人材を自社で確保するのは難しいのが現実でしょう。
➡ 解決のためには?
今までの保守業務の人員を見直し、DXができる人材へ教育する必要があります。また、レポートの中で「スキル標準、講座認定制度による人材育成」と触れられているように、今後DX推進のためのスキルを身に付けられるような講座が出てくるかもしれません。
4. DX実現シナリオをおさらい
最後に、DXを推進するために必要な対策を再度確認しておきましょう。
- 「見える化」指標、中立的な診断スキームの構築
- 「DX推進システムガイドライン」の策定
- DX実現に向けたITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対応策
- ユーザ企業・ベンダー企業間の新たな関係
- DX人材の育成・確保
全てを一度に行うのは難しいですが、まずは自社のシステムを見直し、ブラックボックスやその技術的負債をクリアにしていくことが求められています。
5. まとめ
DXが大事だとわかっていても、なかなか進められないことも多いと思います。
2025年の崖レポートを再度読んでみて危機感を持ったら、一度開発会社やDX推進をしている会社相談してみると良いでしょう。
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