ベトナムでビジネスをする、働く際に必ず必要になるのが銀行口座。一方、ベトナムにおいて万が一銀行が破たんした際、預金がどこまで保護されるのか気になる方も多いと思います。ベトナムの預金保険及び東南アジア各国の預金保険で保護される金額を調べて比較してみました。
目次
ベトナムの預金保険による保護額は?
日本の預金保険は、1,000万円まで保証されますがベトナムの預金保険は、2017年2月現在わずか5,000万ドン(約25万円)です。対象は、ベトナムドンのみで米ドルや日本円などの外貨は対象外です。⇒ベトナム預金保険WEBより
額面からしても非常に少ないと思われるこの預金保護は、国際比較した時に十分な金額なのでしょうか?
東南アジア各国の預金保護
まずは東南アジア(アセアン各国+香港)各国の預金保険において、銀行破たん時に保護される金額を調べてみたので比べてみます。
国名 | 保護される預金上限額 (現地通貨換算) |
通貨 単位 |
保護される預金上限額 (日本円換算) |
日本 | 10,000,000 | JPY | 10,000,000 |
香港 | 500,000 | HKD | 7,323,314 |
シンガポール | 50,000 | SGD | 4,011,864 |
ブルネイ | 50,000 | BND | 4,011,864 |
マレーシア | 250,000 | MYR | 6,403,873 |
タイ | 1,000,000 | THB | 3,225,794 |
インドネシア | 2,000,000,000 | IDR | 17,035,019 |
フィリピン | 500,000 | PHP | 1,142,264 |
ラオス | 20,000,000 | LAK | 283,604 |
ベトナム | 50,000,000 | VND | 251,449 |
日本円換算する際の換算為替レートは2017年1月末時点で計算。タイは2017年8月以降の預金保護額。
ベトナムは、隣国のラオスよりも少なく、なんと東南アジア最低レベルです(そもそも預金保険が無いカンボジアや、ミャンマーといった国々よりはマシですが)。では国の経済力に見合っている預金保護額なのでしょうか?
東南アジア各国の預金保険の適正額は?
預金保険の適正額について調べたところ、国際預金保険協会International Association Deposit Insurance (IADI)という団体があり、預金保険では、「預金全体の90~95%を保護できるようにすべき」としており、また「1人あたりGDPと比較した預金保護額は、少なくとも1~2倍の保護をできるようにすべき」と基準を設けていることがわかりました。
各国の預金総額と積み立てられた預金保険の総額はすぐに出てこなかったので、1人あたりの名目GDPをベースに預金保険の保護力を比べてみますと・・・
国名 | 預金保険上限 (単位は現地通貨) |
1人あたりGDP (単位は現地通貨) |
倍率 |
日本 | 10,000,000 | 3,982,471 | 2.5 |
香港 | 500,000 | 333,323 | 1.5 |
シンガポール | 50,000 | 72,298 | 0.7 |
ブルネイ | 50,000 | 34,726 | 1.4 |
マレーシア | 250,000 | 39,165 | 6.4 |
タイ | 1,000,000 | 204,483 | 4.9 |
インドネシア | 2,000,000,000 | 48,505,482 | 41.2 |
フィリピン | 500,000 | 138,500 | 3.6 |
ラオス | 20,000,000 | 15,740,312 | 1.3 |
ベトナム | 50,000,000 | 49,169,357 | 1.0 |
ほとんどの国々は、シンガポールを除き預金保護額>1人あたりのGDPという状態に対し、ベトナムは、1人あたりのGDPと預金保険額がほぼ同じでした。
全て現地通貨ベースで計算しているので、為替による影響はありません。
シンガポールは意外にも低いことがわかります。(もっともシンガポールの銀行は、銀行の健全性が高いと言われており、単純にこの数値だけを持って安心感の比較はできません。)
インドネシアは、1人あたりのGDPに対して預金保護が非常に高く、また同様にタイにおいても2015年まで5,000万バーツでしたが、2015年8月以降の保護額は2,500万バーツに減額され、さらに今年2017年8月からは100万バーツへと下がりますがそれでも4.9倍です。
マレーシアの預金保険は12年前の2005年に開始されて以来25万リンギですが、1人あたりGDP比でみると現在でも6.4倍と他のアジア諸国よりも高く、2005年当時では11.8倍でした。
この3ヵ国は、20年前のアジア通貨危機で特に大きな打撃を受けた国々であるため、預金保護の金額を大きめに設定し、預金の安全性を打ち出したのかもしれません。
ベトナム預金保険でカバーできる範囲は?
ではベトナムにおいてこの預金保険でどのくらいの預金がカバーできるのか、ベトナムの預金保険自らが発表しています。
少し古い2012年時点のデータですが、5,000万ドンでカバーできる預金は、全体のわずか19%しかなく預金の81%が銀行が破たんした場合ペイオフされる(全額は戻ってこない)可能性があります。
⇒ベトナム預金保険より(ベトナム語)
現在はこの発表の4年前よりも、もっと預金額が増えているはずなのでカバー率はさらに下がるはずです。今後の経済成長を考えると、預金保護の上限引き上げは待ったなしではありますが、2013年に預金者の90%をカバーし、当時の1人あたりGDPの5倍に相当する2億VND(約100万円)への引き上げが提案されたものの、確固たる理由もなく実行に移されなかったという経緯があり今年中に保護金額が引き上げられるのか不明です。
ちなみにベトナムの預金保険は、2016年5月時点で資産30.6兆ドン、うちすぐに支払い可能なのは23.2兆ドンと言われており、中央銀行が主にベトナム国債で運用しており、原資となる預金保険料は平均預金残高の0.15%を各銀行が負担しているとのこと。
暗黙の政府保証で預金を保護?
ベトナムでは、直近で銀行が事実上破たんした事例がありますが、政府による強制国有化(全株式を0ドンで強制取得)という形で処理された為、おそらくペイオフにはなっていない模様です。
例えば国有化されたGP Bankは、2015年で9.2兆ドン(約462億円)の債務超過だったことが判明しており、同様にOcean Bankも債務超過で国有化され、ベトナム建設銀行(Vietnam Construction Bank)も国有化されました。
⇒「GP.Bank moves toward nationalisation」
さらには、ホーチミンでよく見かけるSacom BankやDong A Bankなども2017年中に処理される見込みと報じられています。
⇒「2017年1月6日のVIETJO記事」より
ベイオフをしてしまうと預金保護が小さく、ただでさえ人々の銀行に対する信用力が低いので、日本における昭和初期の金融恐慌の様に全国的に取り付け騒ぎが起きてしまい、収拾がつかなくなってしまうこと(またその批判の矛先が監督機関である政府に集中する可能性)をベトナム政府は恐れていると推測されます。
事実、2012年にACB銀行の会長が逮捕された際も、そのACB銀行からは2日間で3.8億ドルものお金が引き出されるなど取り付け騒ぎに近い混乱が発生した事件がありました。
日本でもペイオフ解禁までは同じような感じでしたがモラルハザードではあるものの、預金保険による必ずしも十分な金額ではない保証よりも、預金全額について政府による暗黙の保証がついているとベトナム国民に信じさせている=事実上全額保証をせざるを得なくなっていることが、ある程度ベトナムの金融システム安定化に役立っているのかもしれません。
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