ベトナム情報

【後編】ベトナムはいかにしてコロナ感染を収束させたのか?情報戦略と IT 活用編

後編の今回は、ベトナム・ホーチミンにてソフトウェア開発を12年おこなっている Vitalify Asia 櫻井岳幸代表より、ベトナムの新型コロナ封じ込め政策の中での情報戦略と、それに関する IT の活用事例をご紹介いただきます。

前回の記事では、先日5月29日におこなわれたオンライントークイベント「新型コロナ vs ICT – 加速する医療のデジタルトランスフォーメーション」( SUNDRED 株式会社主催、一般社団法人 聴診データ研究会後援)の中で、ラッフルズメディカルホーチミンにて総合診療医として働いておられる中島敏彦医師による講演内容をお届けしました。

本記事では、4つあった講演テーマの中で、ベトナム・ホーチミンから現地の情報を発信されたお二方をピックアップしておまとめしています。

櫻井 岳幸
Vitalify Asia Co.,Ltd. 代表。2009年4月からベトナムへ完全移住。元はエンジニア(インフラ/ソフトウェア)。ベトナム人と結婚し、4児の父でもある(ベトナム4つの病院で出産に立ち会う)。ベトナム人のスターエンジニアの輩出を目指し、ベトナムに骨を埋めるつもりで100人超のメンバーを率いている。

1. 徹底した情報戦略

私はベトナムで 2009 年からソフトウェアの開発会社をおこなっております。ですので学者でも医師でもなく、ベトナムにいて IT 且つ遠隔診療に関わっているといった立場でお話させていただきます。

まず前提としてベトナムは社会主義国ということで、基本的に情報検閲がある国です。テレビ・新聞・雑誌・Webメディア、商工会議所の会報や現地の日本人向けフリーペーパーも、基本的に政府が検閲した情報しかメディアに流れていません。

情報規制に関しましては、コロナが始まってからは規制と管理というのを即時強化していき、噂やデマなど不確実な情報を流すと、場合によっては罰金や公表といったような形でSNSも徹底的に厳しく取り締まっていました。

政府はかなり厳しい対策をとりながらも、国民に対しては励ましのメッセージを一貫してずっと送り続けていました。「新型コロナウイルスは国民が戦うべき『敵』であり、国民の健康が経済よりも優先である。みんなで一緒に戦おう!」というメッセージを掲げ、感染の疑いがあれば、エリアごと、マンションやアパートごととかの単位で隔離されてしまうんですが、それに合わせて政府主導で周りも励ましを続けるといったことが起きていました。

また、衣食住の安全性のアピールもされていました。ウイルスの影響の詳細は流行初期当時まだわからない状態だったこともあり、「すごく危なくて感染したら死ぬかも知れないけど、自粛すれば大丈夫である」という風に呼び掛けられていました。ベトナムにおいては食料自給率が 100% を超えているし、とにかく家にさえ待機していれば心配はない、ホームレスも助けるといったことがアピールされていました。

それから、人の隔離はおこなっても情報やサービスが隔離されることはなかったと言えます。政府が率先して隔離施設の情報を提供しており、隔離されている人も自分から情報を発信をおこなっていました。

加えて、もともとバイクデリバリーが普及していたこともあり、フードから EC で注文したものまであらゆるものが注文したその日のうちにすぐ届くといったインフラがありましたし、これらのサービスは規制されなかったために、Stay home における食料とかモノの入手の不安というのはあまりなかったなと思います。
結果的に、国民が強制ではなく素直に自粛をおこないました。


実際3月下旬辺りの丸2週間ぐらい、街から誰もいなくなるという状況が発生しました。普段であれば100人、200人集まっているようなホーチミンの中心の場所にも誰もいない。スーパーなどは開いていたんですが、買いだめに走るなどのパニックにはそこまでなっておらず、あまり人がいないという状況が起きていました。
日本でここまで誰もいないとなるとちょっと怖い気もするんですが、ベトナム人の奥さんや他のベトナム人の話を聞いている限りだと、ベトナム国内ではあまり恐怖感というのはなかったかもしれません。

2. 荒くてもとにかくスピード優先! IT による情報戦略

保健省が新型コロナウイルスに関する情報サイトを開設したのが 2月11日。日本だとまだなにもコロナに対して危機感はなかった頃ではないでしょうか。国からの公式ガイドラインやコロナに関する各種情報を専用で発表する政府公式メディアとして2月の頭時点で発表されていました。

また、2月13日には、Viettel によって健康情報の申告ができるアプリ「NCOVI」がわずか 6 日で開発されているというのもニュースに取り上げられていました。こちらは国の要請に従い、ベトナム国内の人々の健康状況を把握・分類し、適切な隔離と観測措置をおこないます。外国人やこれから入国してくる人も対象としていたので、リリース当初から英語にも対応していました。
2月頭の時点で、入国する人はこのアプリをインストールして申告するよう言われていました。どこにどれだけ感染の疑いがある人がいるのかがマップで見れます。今後、国が入国の規制を解除する際に外国人もこのアプリを使って健康状況を申告するのが必要になってくるのではないかと思いましたね。

アプリがリリースされてからどんどん改善され、見た目も良くなっていきましたが、UX/UIの部分ではまだ課題はありそうです。

実際私もこのアプリを使ってみてはいるんですが、毎日毎日このアプリから「今日お前元気か?」「今日の健康状況どうだい?」みたいな質問をされます(笑)。そこで熱があるとか、肺が痛いとか、咳が出るとか、そういうのを選択して毎日申告することが推奨されてるんですけど、個人的にはたとえ熱が合ったとしても咳が出たとしても、自分のパスポート情報などすべて登録した中でちょっとここから自分の健康状況を申告するのは怖いなと...。
もし熱があるというのを申告したときに強制隔離をされてしまうんじゃないかとか、そういった不安があって、異常があってもここから申告できる人ってあまりいないんじゃないかなと。ベトナムの国民もそうなんじゃないかと思いますが、心理的ハードルのような課題は、このアプリではまだ解決できてないのではないかと感じています。最近だとコロナも収束してしまって、アプリの更新も止まっちゃってるので、もったいないですね。

ベトナム語版の新型コロナ統計ダッシュボード 2月13日に民間企業の KOMPA という会社によってリリースされました。アメリカの大学が公開したオープンソースをベトナム語に翻訳したものですが、何かしらあらかじめ情報をもってたのではないかというぐらい早く2月13日の時点でこのクオリティで出されました。ベトナムの方はみんな毎日この黒い画面をチェックしていましたね。

もうひとつ、ベトナム初の遠隔診療アプリで Bacsi24 (Bacsi はベトナム語でドクターの意)というものがもともと有料で存在していたのですが、こちらはベトナム政府の支援コロナ期間中は無料化とされました。症状の申告機能や医者とのチャットでのアドバイス機能があったり、お医者さんとビデオ通話を録画しておいて、ユーザーはあとから確認できたりもします。病院に行くことを制限し、どうしても必要な場合にのみ病院にいくことを目的としたアプリですね。

ただ、これが必要とされているのは都市部ではなくてどちらかというと地方にいる若干高齢者側の人なのかなと思うんですが、ちょっと高齢者の方はこのアプリを使って申告するとかいうのはちょっと難しそうだと感じました。 若い人でも使いにくいかも知れないです。コンセプトとしては素晴らしいのですが、UI/UX のクオリティの部分ではまだ課題があるのですが、とにかくスピードは早かったです。

3. その他変わり種の事例

通信キャリアの表示が Stay Home に変わったということも挙げられます。日本だとドコモとか、ソフトバンクとか書かれているような場所が、全部ベトナム語でHay O Nha!( Stay Home の意)に変わりました。また電話をかけたときも、Stay Home に関するアナウンスが流れてから電話がかかるようになっていました。

中島先生の方でも紹介されていたとおり、有名な歌手がヒット曲で替え歌を作って街中で流れるということもありました。ベトナム発のコロナダンスっていうのが、TikTok で大流行して、結構世界的な大ムーブメントになっていましたね。外国でも真似して踊っている人がいたり、国内でも踊れる人も多いかと思います。街宣車で流れてたりもしていました。

またこちらもちょっと変わったネタなのですが、顔認証で貰い占めを防止する機能までついたお米の ATM というのが全国に設置されました。もともとフリースーパーみたいのものがベトナム中にできて、みんなが生活困窮者に食料を提供するといったことが起きていたんですが、その流れで自動でお米が配れる機械というのもたくさん導入されているのが世界でも注目され、インドにも数十台輸出されるなどとニュースでも報道がありました。

ベトナムの情報戦略の特徴

代表的なものを紹介させていただきましたがまとめますと、たとえ荒くても、未完成でも、とにかく素早くリリースして、それを政府が後押しする。これがベトナムの情報戦略の特徴です。この素早い動きで荒くても出しちゃう、というところはベトナムにしかできないんじゃないかというぐらいすごい動きでした。

ここでさらにどんどん機能を改善していっていければ、ベトナムから世界的サービスにまで広がる可能性もあるんじゃないかと思っているんですが、アプリの品質とか、ユーザーの心理的ハードルを下げるとか、そのあたりを弊社のような日系開発会社が後押しできないかなと思っています。

4. データが取りやすくテストがしやすい?! ベトナム × 医療 × AI でできること

AIで画像から診断したり、医師に代わってロボットが判断したり、医療 × AI でできることのイメージはたくさんあると思います。弊社も AI 事業を推し進めていく中で、実際はまだまだ結構課題が多い状況だと思っています。

日本の AI開発・DX をすすめる上での課題

AI で成果を出すためには技術力というよりもやはりデータが全てで、圧倒的なデータ量や、データに関する専門的な判断結果だったりというのが必要になってきます。
そのへんでいうと中国とか、アメリカの企業 GAFA (Google, Apple, Facebook, Amazon)あたりはとても強く、データをほぼ支配していると言えますよね。一般の人、一般の企業がやろうとしても圧倒的にデータが足りないことも課題となっています。また医療に関するソフトウェアの判断に関しては厳格なエビデンスが求められます。もちろん人命に関わることなので、日本でそういうことをやろうとしても誰もそのシステムを許可できない。となると何も前に進まない、というのが現状です。
ただ、ベトナムにおいては、この壁は実はクリアできるんじゃないかと。今でてる遠隔診療のアプリとかでも、いくつかのちょっとした質問に答えるだけで「病院に行ってください」とか「チャットで相談してください」とか、患者の状態を分類している。
これを日本でやろうとすると、誰も許可できない。そこには医療エビデンスが必要で、ロジックをしっかり書き出して、監査に出して国の認可を取ることが必要…とかになってくるんじゃないでしょうか。日本ではカルテの紙自体がバラバラで、各病院ごとに導入しているシステムもフォーマットも違うということで、足並み揃えるにはデータを扱うだけでも難しい。一企業で解決できそうにはないのではないかと思っています。
ヨーロッパ・アメリカなどの先進諸国だとデータの取扱いに関する法律はどんどん進化していっていて、新しい個人情報保護法とかもできていっているんですが、日本は曖昧で、例えば人の血圧データや聴診の音の画像データなど、それを個人の名前とか年齢性別とかに紐付けなくても個人情報扱いされるのか?ということはもちろん法的にどこにも明記されていなかったり、企業もこれを個人情報ではないと断言できない、扱えない、外に出せないとなってしまいます。

ベトナム × 医療 × AI に期待!?

ただベトナムでは、現状ですとそのへんの法整備が厳格化されていなかったりですとか、個人情報に関しても日本に比べるとあまり気にしていなかったりといったところがありますし、既得権益の仕組みも日本とはちょっと違って、団体ではなく特定の人を抑えてしまえば大丈夫だったりします。ベトナムのこのスピードを考えると、おそらく今出てるアプリはあまり医療エビデンスは取らずにでてるんじゃないかなと勝手に思っています。データの取りやすさといった点でいえば、ベトナムはチャンスが有ると言えるのではないかと思っております。

医療 × AI はやはりスピード勝負で、なかなか日本の課題解決を待っていては進みが遅いかもしれないですね。話は変わるんですがベトナムや東南アジアはリーマンショックのあとに本当に急成長をおこないました。今回アフターコロナで急速な東南アジアの発展というのが起きるんじゃないかと。そういった中でベトナム × 医療 × AI といったところの取り組みというのは加速していくんじゃないかなと考えております。

そしてテストマーケットとしてもとても優秀だと考えております。例えば日本にも進出している Grab は東南アジアではかなり一般的なサービスになっていますが、グラブバイクサービスやフードデリバリーといったサービスもまずどこの国よりも早い、始めのマーケットとしてベトナムのホーチミン市が選ばれております。
YAMAHA さんとベトナムの国営での動きとなりますが、ベトナムの試験都市での自動運転の試験運用が始まります。次は遠隔診療というのが今後後を追うと思っております。

5. まとめ

多くの日系企業が今、ベトナムの医療 × AI といったところに進出を目指してきております。
弊社でも遠隔診療に関するベトナムでの開発に携わらせていただくことが一番多いケースとなっています。日本や欧米諸国を含む遠隔診療や遠隔リハビリ、ベトナムの遠隔診療の取り組みにおいてはベトナム南部最大の国立病院での試験導入を予定していたりもします。

医療 × ICT × ベトナムはこれからアツくなっていくと思われます。

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