『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』の話し方

    Vitalify制作部の佐藤です!

    普段はWebディレクションの仕事をしているのですが、友達にアニメのプロデューサー見習いのようなことをしている人がいて、たまに会うたびに疲れた顔をしているので心配になっています。

     

    アニメの仕事については詳しくはないのですが、きっと多忙なのだと思っていると、最近、彼の事情が分かりそうな本が出版されていました。

     

    『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』(https://www.evastore.jp/shop/g/gZ0001401/)

     

    2021年に劇場公開されたアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン」の制作業務をプロジェクトマネージメントの面から総括するという本で、面白そうだと思い読んでみましたので、以下レビューのようなことをしてみたいと思います。

     

     

    まず、この本の著者は「シン・エヴァンゲリオン」で制作進行を務めた方が中心となって書かれているのですが、著者がアニメ業界に入る前の前歴がJAXA(宇宙航空研究開発機構)勤務ということで、オライリー本のような技術者向けの体裁を踏襲していることが印象的です。

     

    そして、いわゆるアニメファン向きの情報というのが全面には出てきていない。

     

    本書の冒頭で「『シン・エヴァ』の映像表現・技術等に関する解説を目的としていない」(本書p8)と筆者が断りを入れている通り、「あのキャラクターの設定は××で〜」「あのシーンは実はこうだった〜」といった話は抜きにして、プロジェクトを進行するために必要となった要素のみを抜き出す雰囲気が全面に出ています。

     

    実際、「シン・エヴァンゲリオン」の制作総費用は約32億6500万円(本書p24)(!?)に上るとのことですので、そうした演出的な部分を抜きにしたプロジェクト遂行をまとめるスタッフが確かに必要だろうな…という感じではあります。

     

     

    しかし、本書の序盤では理系的なシステマティックさでプロジェクトを総括している筆者なのですが、(恐らく)本書の中盤頃から歯切れが悪くなってくる部分が本書が見えてきます。

     

    というのは、通常アニメ制作の進行においてはITで言うところのウォーターフォール型(映像制作においては、コンテ→プリヴィズ→撮影→編集のような流れ)の工程を守ることによりスケジュールや予算をキープするのですが、「シン・エヴァンゲリオン」では上記のプリヴィズ(ITで言うとデザインラフの作成や概念検証の工程に近しいか)の工程を「できるだけ、可能な限り」行い続けたと述べています。その映像素材は少なくとも79,500点以上に及んでいます。

     

    そのような進行を行なわれれば制作進行としては冷や汗ものだろうと思うわけですが、このあたりから本書の記述にスタッフの熱意や試行錯誤の部分が強調され始めるのも、偶然ではないのかもしれません。

     

     

    一般のWebディレクションをしていると、そこまでのことをするのか…とも思うのですが、ここがITと映像制作の異なる部分で、求められる要件がどこで決まるのか、というところなのだろうなと思います。通常、ITではクライアントあるいは代理店によって要件が明確な数値によって定められますが(定められない場合もある)、映像制作においては表現全体に関わるため具体化が難しいところなのかもしれないですね。

     

    そうした、具体化が難しい要件をとりまとめようとする制作進行の例として読むと、なんとなく制作における苦労などが見えてくる本なのかなとも思います。

     

    もちろん、本書の目的通りのプロジェクトマネージメントの本として読んでもめちゃくちゃ面白いです!

     

     

    というわけで、映像制作における苦労のような部分も触りだけは感じることができましたので、冒頭で触れたアニメ業界に勤めている友達と今週会う約束をしているのですが、なんとなく、この記事で書いたようなことを話してみたいなと、思っています。