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    カテゴリー 日常 / プライベート

    ドキュメンタリーを追いかけて

    制作4G伊東でございます。
    前回、ドキュメンタリの話をすると書いてしまったので勝手に自分に束縛されて困っておりました。やはり変な宣言するものではないですね。

    ドキュメンタリ好きのこだわり

    出だしから状況説明的なセリフが多いドラマ、視聴者に歩み寄りすぎというか、うんざりしてしまうんですよね。民法地上波のものにはとてもそういうスタイルが多いのですが、すぐに見るのを辞めてしまいます。勝手ながら、私はシーン構成と流れで気づかせて欲しいのです。

    どうせなら、そういうのはもう男塾の雷電にでもやって頂きたい。

    同様に、ドキュメンタリでは「まずナレーションに頼らないものこそ」というのが自分のなかでの基準になっています。優れたドキュメンタリは「当事者のインタビューや実際の映像だけ」で、ファクトを積み上げてパッチワークのように繋ぎ合わせて作られるものだと思うからです。

    こうした手法は、素材を収録する取材力ともにすごくパワーを使いますが、思うようにコメントが入れられないぶん、安易に視聴者をテーマに誘導できず、編集の段階でも柔軟な構成力がものすごく問われるもので、時間もコストもかかってしまうのです。

    一方、構成と進行をナレーションに頼ってしまうと、もっぱら造り手の主観や価値観へ偏ってしまい、いかようにも脚色されてしまうので説得力が下がってしまいます。すると、観ている方としては、どんなに心に響きそうな内容でも少し警戒してしまうんですよね。

     

    ネトフリで観るドキュメンタリ

    さてそういう意味で力作の多いNetflixのドキュメンタリー。さすが予算あります。作りも上手いです。

    最近釘付けになったのは『ターニングポイント』

    …今まさに進行中の事象であるだけに、衝撃的です。今日の米国のアフガン撤退までの流れを知る意味では、ひとつのいい視点になるかなと思ってます。

    スポーツ分野では『F1 栄光のグランプリ』から観始めたのですが、これはこれですこぶる面白いしシーズン3まである好調なものの、ここでは車の話はいつものことなのでそれは避けて……


    今回の推しはこちら。
    『サンダーランドこそ我が人生』

     

    希望と現実

    原題の「Sunderland ‘Till I die(死ぬまでサンダーランド)」のほうがニュアンスとしては邦題の「我が人生」よりしっくりくるな、と思ってます。選手も監督もオーナーも変わるけれど、愛する我がクラブは生涯をかけてひとつだけ、という文脈なんですよね。

    どんなにその愛情の対象が落ちぶれようとも共に有り、いつまでも変わらないというフットボールファン的世界観はサッカーの歴史が比較的浅い日本でもありますが、まちぐるみでというのが映像に彫りつけられていて、とても濃い。 ‘Till I dieのくだりは、ファンたちが歌うチャントのなかで何度も歌詞として登場し、胸を熱くさせられます。

    あまりネタバレは避けるとして、シーズン1では2部リーグに降格してしまった巨大クラブをめぐる、選手やスタッフを取り巻く苦悩、そして資金難からの負のスパイラルのありさまが。シーズン2では更に下のリーグまで転落してしまったところからの改革への挑戦と再起までが映像で紡がれています。
    この作品、陳腐な言い方になりますが、サッカークラブを通した単なるスポーツドキュメンタリにとどまらず、組織と人、改革と慣習、地域とのつながり、興行とビジネス、サービス運営とロイヤリティというさまざまな要素がつなぎ合わされていくなかで、希望と現実が浮き彫りにされていきます。

    良い意味でも、悪い意味でも、都合よく進まずに残酷に共感をえぐり倒して見せてくれますが、そこがなんとも辛い。そして楽しい。

    別方向からの視点を自分で追ってみるもまたよし

    その取材の舞台裏を調べてみると、必ずしも選手やチームの現場は制作スタッフが取材に入るのに対して肯定的ではなかったようです。ただ、それは生々しく容赦なく描かれたが故とも言えるわけで、ここまで出来るのかと感心することしきりの出来栄えとなっています。

    自分としてはよりクラブ経営陣のむき出しの議論や、ファンとクラブの関係、背景、愛情のありかたを細かくあぶり出されたシーズン2のほうが興味深く見ることができました。

    ところで、サンダーランドといえば本編中でも描かれている通りイングランド北東部の地方港湾都市である一方、(日本人的視点では)日産の英国工場が稼働する拠点でもあります。収録当時のブレグジットの流れのなかではどんな温度感だったのか、地元のファンがどんな暮らしを背景として過ごしているのか、というのを通して透かしてみることができたりして興味深かったです。当時はブレグジットの行方によってはその数千人もの雇用を抱える工場の閉鎖も囁かれていましたので、劇中のEU脱退推し一色なデモの描写はちょっと意外ではありました。※

    またシーズン2でサンダーランドに在籍か移籍かで揺れる選手を描かれるくだりについては、最近その別の側面も伝えられてきておりまして、いかに作り込まれたドキュメンタリにおいても、一方的な事象の受け捉え方は危険だなと考えさせられる部分があります。ただ、こうやって、題材の周辺を自分なりに掘り下げていけるのも、またこのジャンルの楽しみ方でもあったりはします。私としては、多面的な視点や理解というのはやはり大事だと感じました。

     

    ともあれ、いろいろな発見もあって、見応えありますのでぜひ。
    スポーツでは新作の「大坂なおみ」「シューマッハ」も観たいんですよね。「スポーツ界の闇」ももうすぐ配信開始。いや、しかし時間がない…。

     

    ※最近、ルノー日産の次世代バッテリの生産をサンダーランドで行うという発表もありました。それはこの風が冷たそうな街の方々にとって良いニュースだったなと思います。同時に合理化や機械化も進めるという話でもありますので、どうか上手い雇用とのバランスで実現しますように祈っております。

     


    【余談その1】

    ネトフリのノンフィクションでも、ちょっとズルい方法を使っていたりします。『栄光のグランプリ』なら『サンダーランドこそ我が人生』両方とも、ラジオで放送されたコメント内容をボイスオーバーしているようでいて、実は別収録した内容に思えるところがいくつか存在しました。そういう手法も含めて上手いなとは思います。

    【余談その2】

    スポーツビジネスといえば少し前に読んだ記事。

    コロナ禍で物販収入額を伸ばした横浜FM 商品事業部の戦略と思いは

    興行としてファンの新規流入を継続的に狙うのがセオリーであるなか、グッズの戦略もその一端であります。しかし、無観客試合や入場宣言下の環境、スタジアムに客を呼べない時勢柄ではそれは難しいと見るや、すぐに既存客に戦略を全振りして乗り越えたという話が興味深い話でした。興行もサービスですので、新規:既存のチカラ配分はサブスクの教祖「Zuora」の言う通り8:1ぐらいなのかなという認識なのですが、非常時においてはそうではなく柔軟にということなのでしょう。

    私たちVFでも「既存のお客様に注力して満足していただけるように」という動きを持っているのですが、それに通じる部分がありナルホドと思いました。サッカーでは攻守の切り替えをトランジションと言いますが、やはり意識の持ち方は大事ですね。

    それでは、それでは。